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コラム

第20回

「ラプラスの悪魔」

はじめに

休憩の時間、”哲学的科学の回”第2弾です。気軽に読んでみてください。

突然ですが、
皆さんは”運命”を信じていますか?

「君と僕は結ばれる運命にある。」などと嬉し恥ずかしの言葉として使われる場合は良いのですが、「今回の事は、運命と思って受けとめるしかない。」などのあきらめの言葉のような言い訳のような言葉に使われる場合も多いように思います。

結果には原因がある

全ての出来事はそれ以前の出来事(原因)によって決定するという理論は”因果律”と呼ばれ、近代物理学の基本的な考え方です。

また、人間の意志・行為を含めすべての事象はある原因により一義的に導かれる(すでに決まっている)という考え方は”決定論”といわれます。

「昨晩あなたは和牛ステーキを食べた。」という事実を結果とすると、その原因は、肉が好きだから?スーパーで特売をやっていたから?一昨日魚を食べたから?いやいや、パチンコで儲けたから贅沢してみた。など様々な原因が考えられます。

気象庁の週間天気や台風の進路も、原因となる各地の気温・気圧、衛星画像、過去の事例、太陽の活動状況など気象に関連するあらゆるデータと物理法則など莫大な情報を分析することでスーパーコンピューターが結果を予想しています。

未来はすでに決まっているのか?

18-19世紀のフランスの数学者ピエール=シモン・ラプラスは1812年の自身の著書『確率の解析的理論』の中で「もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も過去同様に全て見えているであろう。」と述べています。

今風に考えると、この知性は、この宇宙全体にある物質の最小単位である素粒子全ての位置、運動量など、ある瞬間の物理的情報をすべて記憶しており、その情報を解析できるあらゆる物理法則(現状未知である法則含め)が完璧にプログラミングされている”超ウルトラ・スーパー・量子コンピューター”と考えることができます。

この知性(=超ウルトラ・スーパー・量子コンピューター)を「ラプラスの悪魔」と呼びます。

この宇宙の活動は物理法則に従っています。他の物質と同じように素粒子で構成されている人間の頭脳もまた物理法則に従っている動いている物体という事ができます。つまり、この超ウルトラ・スーパー・量子コンピューターは、人間の判断含めたこれから起こるすべての出来事を完全に予測できるはずです。

インドの伝統的な概念”アカシックレコード”も同じような発想なのかもしれません。

ある物理学者の試算によると、現状人類が開発可能と考えられるスーパーコンピューターの10の80乗倍以上の能力があれば「ラプラスの悪魔」は実現可能という事らしいのですが、なんのこっちゃかさっぱりわかりません。

この理論を突き詰めていくと、あなたが昨日和牛ステーキを食べたのは、この宇宙が誕生したビックバンの時すでに決まっていたことになります。

カリフォルニア大学の”ベンジャミン・リベットの実験”のように、本当に私たちの自由意思は無いのでしょうか?(リベットの実験って何だろうと思ったらググってみてください。)

ラプラスの悪魔のパラドックス

もし、「ラプラスの悪魔」を私たちと同じ宇宙に存在する超ウルトラ・スーパー・量子コンピューターと仮定した場合、「ラプラスの悪魔」自身も同じ宇宙の一部であるため、宇宙すべての情報が格納されているという自分の情報も格納する必要があり、またその情報が格納された自分の情報が格納されているという情報が格納されたという情報が・・・と永久ループし終わりがありません。

また、その悪魔から今晩和牛ステーキを食べる情報を取得したあなたは、OGビーフのステーキに変更することはできるのでしょうか?

これらの不合理・矛盾を「ラプラスの悪魔のパラドックス」と呼びます。

ラプラスの悪魔は存在しえない

高校の数学で習った逆説的な証明方法のを覚えていますでしょうか?そう、”背理法”です。
仮定した内容が不合理や矛盾を引き起こすのであればその仮定は間違いであるという証明方法です。裁判での無罪主張や”悪魔の証明の回避”などにも使われます。(それにしても偉い学者さんは"悪魔"が好きですね。)

つまり「ラプラスの悪魔」は少なくとも同じ宇宙には存在しえない。また別の宇宙に存在したとしても、アクセスすることはできない。というのが結論になります。
100万歩譲って「ラプラスの悪魔」に相当するものが存在していたとしても人類には確認することができないという事です。

少し話がずれてきましたが、問題の本質は、「ラプラスの悪魔」が存在できるかどうかではなく、未来はすでに決まっているのか?という疑問です。

最新の物理学では

最新の物理学はある部分では相対する"一般相対性理論"と"量子論"の2大理論の上に成り立っています。その2大理論のひとつである"量子論"の"不確定性原理"によると、素粒子の位置と運動量は同時に特定することができないとされており、学問として発展途上のであることも事実ですが、極小の世界での未来は確定していない事になります。

"因果律"を基礎に置く"一般相対性理論"の考え方とは微妙に異なるところですが、”不確定性原理”は数式の上では証明されており、ミクロの集合体であるマクロの世界においても未来は確定していないという事になるのかもしれません。(難しすぎるのでこんな解釈で許してください。)

未来は変えられる?

結果には原因があることは体感的に理解できます。(いやというほど身に染みていますw。)しかし先にも記述したように未来が確定しているかどうかは証明することができません。また、原子レベルの極小の世界では"因果律"が成り立たないのも事実です。今言える事は、私たちには今日の晩ご飯に何を食べるかを選択する自由意思もあり、個々の努力により、豊かな生活を手にすることも可能であり、地球の環境を保持し子孫の繁栄を勝ち取ることもできるという事です。(ちょっと上から目線かな?)

つまり、未来が確定しているか否か?どちらの理論が正しいにしろ、私たちの生活には影響しないという事です。

最後に

”本コラムの【シリーズ】建築と環境”では環境問題の本質や問題解決のための建築にかかわる技術や各民間企業、協会・団体、国土交通省、日本国政府、さらには国際社会の取り組みなどを紹介しています。

また、コラム全体ではBIMを中心とした建築業界の情報提供を通じて、地球スケールでの理想の将来像を実現するための企業と個人の役割を一緒に考えて行きたいと思っています。

今回は居酒屋での話題?”哲学的科学”の回でした。

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