コラム コラム
ホームコラム KYOEI Lab. > 第37回「AIと桃太郎(前編)」~建設プロジェクトマネジメントの寓話として~

コラム

第37回

「AIと桃太郎(前編)」
~建設プロジェクトマネジメントの寓話として~

はじめに

このコラムでは、これまで、BIMやAIといったテクノロジーが、いかにして設計や施工、そして維持管理のプロセスを変革していくかについて、皆様と一緒に考えてきました。

今回は少し視点を変え、AIというツールを使って「プロジェクトマネジメント」の本質に迫ってみたいと思います。題材は、皆様よくご存じの日本昔話「桃太郎」です。

桃太郎と建設プロジェクト

この二つ、一見すると突拍子もない組み合わせに思われるかもしれません。しかし、鬼退治という「目的」を達成するために、リーダー(桃太郎)が多様なスキルを持つ仲間(イヌ・サル・キジ)をスカウトし、チームを率いて困難な課題に立ち向かう物語は、一つの壮大なプロジェクトの記録として読み解くことができます。これはまさに、建設プロジェクトにおける元請の役割や、多様な専門工事業者が協力して一つの建築物を完成させるプロセスと重なるのではないでしょうか。

今回と次回の2回にわたり、この「桃太郎プロジェクト」をAIがどのように分析するのか、ご紹介したいと思います。少し息抜きのつもりで、お付き合いください。

日本昔話「桃太郎」

まずは、生成AIに桃太郎のあらすじをザックリとまとめてもらいましょう。

昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。ある日、おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきます。割ってみると中から男の子が現れ、「桃太郎」と名付けられました。成長した桃太郎は鬼退治を決意し、きび団子を持って旅に出ます。途中でイヌ・サル・キジを仲間にし、鬼ヶ島で力を合わせて鬼を退治。宝物を持ち帰り、村で幸せに暮らしました。

この物語は、「勇気」「正義」「仲間との協力」といった価値を伝えるために語り継がれてきました。では、この桃太郎を建設プロジェクトの責任者として分析するとどうなるでしょうか。

PM(プロジェクトマネージャー)としての
桃太郎の思考・価値観

はじめに、桃太郎に影響を与えている登場人物やアイテムなどの事柄から、AIに彼の思考や価値観を整理してもらいます。

1.正義感

鬼が村人を苦しめていることに対し、「退治しなければならない」という強い使命感を持つ。これは、プロジェクトが何のために存在するのかという「ビジョン」や「目的意識」に他なりません。

2.勇気と行動力

危険な鬼ヶ島へ自ら進んで向かう決断力と、恐れずに行動する勇気がある。つまり、計画を絵に描いた餅で終わらせない「実行力」です。

3.仲間を大切にする心

イヌ・サル・キジにきびだんごという報酬を分け与え、信頼関係を築きながら協力して鬼退治を行う。これこそ、チームビルディングの基本です。

4.感謝と謙虚さ

おじいさん・おばあさんの愛情に感謝し、育てられた恩を行動で返そうとする姿勢。人として大切な、発注者や社会への貢献意識と言えるでしょう。

桃太郎のこれらの思考や価値観は、現代のプロジェクトマネージャーに求められる資質そのものと言えるでしょう。

プロジェクトの多角的評価:
成功要因と潜在的リスク

どんなプロジェクトにも光と影があるように、桃太郎のプロジェクトも多角的に評価することができます。

というわけで、AIにこのプロジェクトの成功要因(ポジティブな側面)と、現代の視点から見た潜在的リスク(ネガティブな側面)を分析してもらいましょう。

◆ 成功要因(PMとしての桃太郎の強み)

まずは、桃太郎というリーダーの優れた点を見ていきましょう。

1.明確なビジョンと目的意識

桃太郎には、「弱きを助け、悪をくじく」という典型的な正義の象徴として、プロジェクトの目的が明確です。

2.卓越したリーダーシップとチームビルディング

桃太郎の持つ能力の一つ、性格の異なる動物たちを仲間にしてチームとしてまとめる力は、優れたリーダーの証です。

3.高い実行力とリスクテイク精神

桃太郎の危険を恐れず鬼ヶ島へ向かう姿は、困難なプロジェクトを遂行する上で不可欠な行動力を象徴しています。

4.インセンティブの有効活用

桃太郎は、「きびだんご」を仲間に分け与えることで信頼関係を築いており、これは組織におけるインセンティブの重要性を示しています 。

◆ 潜在的リスクと現代への教訓

次に、桃太郎のネガティブな一面も探ってみます。

1.対話なきトップダウン手法

桃太郎が武力で問題を解決している点は、現代的な価値観では「暴力的」と捉えられます。発注者(村人)の要求に応えるだけでなく、周辺住民(鬼)との対話や交渉の余地はなかったのでしょうか。

2.ステークホルダー分析の欠如

桃太郎の物語では、鬼がなぜ村を襲ったのか背景が描かれておらず、視点が村人からの一方的な構図になっている可能性があります 。プロジェクトにおいては、対立相手を含む全てのステークホルダーの状況理解が、根本的な問題解決に繋がります。

3.インセンティブのみによる関係構築

動物たちはきびだんごという報酬で動いており、友情というより「契約関係」に近いと見ることもできます 。これは短期的な協力関係には有効ですが、長期的なパートナーシップにはビジョンの共有が不可欠であるという教訓と捉えられます。

こうしたAIの分析は、我々がプロジェクトを推進する際に陥りがちな「目的達成のためなら手段を問わない」という考え方への警鐘とも言えるでしょう。

仲間を集める

ご存じのように、桃太郎は「きびだんご」というアイテムを使って仲間集めをしました。しかし、ホントにそれだけで仲間が動くでしょうか?ひょっとしたら桃太郎は、相手の心に響くスピーチをしたのではないかと考え、それをAIに考えてもらうと、興味深い答えが返ってきました。

イヌへ:忠誠心と正義感に訴える

「君の忠誠心と勇気は誰よりも信頼できる。正義のために力を貸してほしい」

サルへ:知恵と機転に訴える

「君の知恵とすばしこさは、鬼退治に欠かせない。君の頭脳で、仲間を導いてくれないか?」

キジへ:視野とスピードに訴える

「君の空からの視点と素早さは、我々の目となり耳となる。勝利への道を切り開いてほしい」

相手の特性をよく理解し、それぞれの役割の重要性を伝える。これは、多様な専門家が集う建設現場において、監督が各工種の職人さんたちのモチベーションを高めるためのコミュニケーション術そのものです。私たちが桃太郎に学ぶことは、少なくなさそうです。

今回は、リーダーである桃太郎個人に焦点を当てて分析しました。次回後編では、イヌ・サル・キジが加わった「チーム桃太郎」の戦略と、この物語が現代の建設DXに与える示唆について考察します。

コラム一覧へ