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コラム

第14回

「ハイパービルディング
コンセプト」

都市の熱環境と建物のカタチ

前回のコラムでは、建物のカタチが都市街区に及ぼす熱環境についてシミュレーションを行いました。この思考実験によって、平面的に中低層の建物が広がる都市よりも、建物を縦方向に積みあげて超高層化し、建物の周辺に空地(くうち)を確保する都市デザインのほうが、熱環境的には有利であることが明らかになりました。現実的には、このような極端な都市デザインは実現が難しいと思いますが、少なくともヒートアイランド現象を解決し、今よりも涼しい街を造るには、一考の余地がありそうです。

あらたな街づくりで地球環境を保全する

10月に入り、やっと涼しくなってきましたが、この夏(2023年)を振り返れば、異常事態ともいえる暑さにみなさん疲弊されたのではないでしょうか。今年は猛暑日や熱帯夜の日数等で、数々の新記録を打ち立てるなど、あまり嬉しくない話題が多い夏でした。

この夏、みなさんが体験されたように、昨今環境問題は地球規模で急速に深刻化し、私たちの生活にも多大な影響を与えています。しかし、その多くは人類の生産活動に端を発するものであり、我々の活動の場である建物や、その集合体である都市に課せられる課題は大きいと考えられます。これまで私たちが造ってきた街は、あまり地球環境を考慮してこなかったわけですから、せめてこれからの街づくりは、建物や都市のデザインを環境に配慮したものに変えていくことで、街づくりから地球環境を保全することができるのではないでしょうか?

平面型の都市から鉛直型の都市へ

その一つの解決策が、このコラムでみなさんと一緒に思考実験を行ってきた“新しい都市のカタチ”です。そう、建物を縦方向に積みあげて超高層(ハイパービルディング)化し、建物の周辺に空地を確保する都市デザインです。そのイメージは、下図のようなものです。これを名付けて“ハイパービルディングコンセプト”と呼ぶことにします。

しかし、①の街で暮らしていた人々を追い出してまでハイパービルディング化するのは本末転倒です。① → ② → ③ …と街のカタチを変えていっても、そこに収容できる人数や社会活動に必要な場所、つまり床面積(建築的にいうと容積率)は変えないようにしないとなりません。

ハイパービルディングの形状を考える

街を一か所に集約し、そこで営まれる社会活動をすべて収容するには、私たちがイメージする普通のビルでは限界があります。建物の面積が大きくなれば、ビルの中心部には自然光や心地よい自然の風が届きにくくなりますし、建物が高くなれば、縦方向の移動のためにエレベーターが多数必要となります。また、ライフライン(電気やガス、水道)に必要な設備配管などの面積が増えてしまい、人々が自由に活動するために必要なスペースも少なくなってしまうでしょう。これでは、いくらヒートアイランド現象を起こしにくい涼しい街になるからといっても、今までの平面的な街のほうが快適そうな気がします。

この問題の一つの解決策として、街自体を積み上げるというアイデアはどうでしょうか?つまり、〇丁目といったくらいの大きさで街区を切り取り、それを地面ごと上に積み上げていくのです。高層ビルというよりも、人工地盤を鉛直方向に積み重ねていくというイメージです。みなさんとイメージを共有するため、BIMを使ってモデリングをしてみました。

左側のお盆のような図が、街区における〇丁目のイメージです。このモデルでは、人工地盤の外周に10階建てのビルをぐるっと配置しています。実際は、これが10階建てのビルだけではなく、学校や病院、劇場などさまざまな施設となるはずです。今回はシミュレーション計算用の簡易なモデリングですから、すべてオフィスビルのような形状としていますが、ここはみなさんの想像力を膨らませてご覧いただけると幸いです。

右側の図が、この“お盆”を20個積み上げたものです。単純計算ではありますが、これで前回のコラムで計算した100棟分の床面積を収容できることになります。一見するとなんとなく普通のビルに見えますが、実は高さが1,500mを超える超々高層ビルとなっています。まさに、この規模感が“ハイパービルディングコンセプト”です。

比較用に、東京タワー(333m)や東京スカイツリー(634m)、ドバイに建つ世界一の高さを誇るブルジュ・ハリファ(828m)もモデリングし、並べてみました。今回みなさんと一緒に考えたハイパービルディングの巨大さをご確認ください。街全体を収容するには、これほどの規模の建造物が必要とされるのです。

ハイパービルディングコンセプト

ここで、みなさんはきっと疑問を持たれたと思います。実際、こんな巨大な建造物がホントに造れるのかと…

しかし、そこは心配無用です。現在の建築材料は驚くほど高性能で、通常のコンクリートの5倍以上の圧縮強度をもつ「超高強度コンクリート」や、鉄よりも強度があるのにとても軽い「炭素繊維」、またそれらの材料を使って自由な形状で部材を作製できる3Dプリンタ技術も、この数年で飛躍的に技術が進歩しています。近い将来、本当にこのようなハイパービルディングが完成するかもしれません。

天を衝く摩天楼は、有史以前から人々が憧れてきたものです。旧約聖書の創世記にはバベルの塔の物語がありますし、ニューヨークでは1930年代にクライスラービルやエンパイアステートビルが建ち上がり、90年の時を経たいまでもアメリカの工業力を象徴する存在として、人々を魅了し続けています。そして21世紀に暮らす私たちは、単なる高さへの憧れではなく、環境問題を解決する手段のひとつとして、このハイパービルディングコンセプトに期待をしてみたいですね。

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