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コラム

第13回

「猛暑から考える都市デザイン」

9月に入りましたが、
まだまだ暑い日が続いています

気象庁の発表によると、2023年の夏は1898年の観測開始以来最も暑い夏だったようです。このコラムの第11回目で、今年は「7月下旬から8月上旬にかけて暑さがピークになる」と書きましたが、9月になった今も毎日真夏のような暑さが続いています。前回のコラムでは、ヒートアイランドポテンシャルついて触れ、土地被覆による都市の温度の違いをシミュレーションしました。今回はその続きとして、建物のカタチからヒートアイランド現象を紐解いてみたいと思います。

日本だけじゃない、この夏の暑さ

今年の夏は、全国的に平年より暑く、特に西日本や沖縄を中心に平年より高くなっています。東京の連続猛暑日記録は、2004年の40日連続を更新し、8月15日時点で41日連続となりました。東京都心では、1875年の統計開始以降、今年の猛暑日は20回目で、昨年の16回を抜いて過去最多となっています。また、東京都心では60日連続で真夏日となり、観測史上最長の記録を更新しています。(いずれも2023年9月3日現在。)

そして、この異常な暑さは日本だけではないようです。今年は世界各地で猛暑を記録していて、世界気象機関(WMO:https://www.unic.or.jp/info/un/unsystem/specialized_agencies/wmo/)は、今年から5年間のうち、1年間の平均気温が観測史上最高となる可能性が98%と発表しています。つまり、来年は今年よりももっと熱くなる可能性があるということです。うんざりしますね…

少しでも快適な都市環境をつくりたい

日本の都市人口率(都市に住む人の全人口に対する割合)は90%を越えると言われ、もともと都市国家として建国された香港やシンガポール、モナコなどを除けば、世界でもまれにみる高い都市人口率となっています。(注:都市人口率の計算基準は様々な基準があり正確なランキングは確定されていません。)

私たちも街に住み、あるいは街で仕事をし、買い物をしますから、街が快適であれば私たちの生活の質(QOL:Quality of Life)はグッと向上します。今年の夏は異常な暑さでしたから、このコラムではまず都市の熱環境について、建物のデザイン面から皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

都市街区のモデル化

前回のコラムで思考実験した方法に倣い、今回も街を非常に単純なカタチにBIMでモデリングをしてみましょう。シミュレーションに用いる敷地形状は、〇丁目といった大きさを意識して、3,200m四方の正方形とします。場所は協栄産業の本社もある東京都の東部地域とし、中低層建物が一様に広がる、一般的な街をモデルとしましょう。先ずはこれを前回のコラムでも使った単純モデルとし、BIMで3次元モデルとして作成します。

次に、街のさまざまなカタチを表現するため、ランダムに広がった100棟の建物と同じ床面積を持つように調整しながら、いくつかの建物モデルを生成します。ここでも計算を単純化するため、思い切って建物を一か所に集約することとし、徐々に建物を上に伸ばしていく(高層化する)ようなBIMモデルをいくつか作ってみました。番号がとんでいるのは、その中間モデルも作成したのですが、ボツにしたためです。ご了承ください。No.77は、前回のコラムでも計算をした“現状の都市モデル”です。

ヒートアイランドポテンシャルの計算

それでは、さっそく前回のコラムと同じシミュレーション環境を利用し、街区に配置される建物のカタチによって、街のヒートアイランドポテンシャル(HIP)がどのように変わるのか計算してみます。前回同様に、季節は真夏、建物は鉄筋コンクリート、建物周辺の空地は緑地(芝生)という設定で、8月1日正午すぎの表面温度を計算してみました。その結果、どのモデルでも建物の屋根面はかなり赤く表示され、温度が非常に高くなっていることが分かります。建物が高層化するほど、建築面積(建物が実際に建っている面積)が小さくなるため、相対的に緑地面積が増えて緑色が多くなり、見た目も涼しく見えます。

ヒートマップ画像だけでは正確な温度が分かりませんから、シミュレーション結果を分析して各モデルの詳細な温度比較をしてみます。比較は、ヒートマップ画像で出力したお昼過ぎ(12:45)と真夜中(3:30)としました。ここで、数値はHIP値で表します。これは、その時刻の外気温との差だと考えてください。例えば、外気温が30℃の時、計算結果でこの町の平均表面温度が28℃であれば、HIPは-2℃ということになります(HIPの正確な定義は、お手数ですが”HIP & ヒートアイランドポテンシャル”で検索をお願いいたします。)。

たった3℃ほどではありますが、建物を一か所にまとめ、緑地面積を大きくとれば、街の温度を下げることができそうです。注目して頂きたいのは、No.77(現状の街モデル)だけが夜中でもHIPがプラスですが、他の計算モデルは何れも夜中のHIPがマイナスになっているということです。つまり、ヒートアイランド現象を起こしていないのです!これは大きな発見ではないでしょうか。

都市のカタチとハイパービルディング
(超々高層ビル)

今回、皆さんと一緒に行った思考実験で、少し面白い結果を得ることができました。どうやら、平面的に拡散し発展する現在の街のカタチは、それ自体がヒートアイランド現象の一つの原因となっていたようです。街に散在する建物を一か所に集中させる、まったく新しい都市のデザイン。未来の都市デザインの選択肢の一つとして、こうした熱環境面から建物のカタチを考えてみることもアリかもしれません。

現実にはインフラ施設や建物の構造問題など多くの課題があり、街のデザインを実現することは困難だと思いますが、実は30年ほど前のバブル期には“ハイパービルディングコンセプト”として、ゼネコン各社が真剣に超々高層ビルの研究を行っていました。当時はBIMもコンピュータシミュレーションもない時代ですから、ヒートアイランド現象の解決に超々高層ビルの考え方が有効であるとは、気づいていなかったかもしれません。

せっかく面白い結果を得ることができましたので、このコラムではもう少しこの「都市のカタチとヒートアイランド現象」の研究を続けてみたいと思います。是非、皆さまのご意見をお聞かせいただければ幸いです。(ご意見はメールでお願いします。メール送信先:fks@kyoei.co.jp)

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