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第6回

【シリーズ】建築と環境 -3-
「建物の環境性能評価」

経済成長から環境配慮の時代へ

20世紀は高度経済成長の時代でした。日本でも、宅地造成や社会インフラ整備などの大義名分のもと、山を切り崩して木々を伐採し、川には蓋をして、地面はアスファルトで覆い尽くしました。今では環境破壊の代名詞のような“コンクリートジャングル”という言葉も、当時はそれが豊かさの証明であるように使われ、社会もそれを求めてきました。

しかし21世紀になり、地球環境が悪化の一途をたどっていることに誰もが気付き始め、社会が自然環境の保全を求めるようになると、時代は経済成長から環境配慮へと方向転換し、私たちの意識や生活も大きく変わろうとしています。イースター島の悲劇は、二度と繰り返してはならないのです。

建築の歴史は環境破壊の歴史?

イースター島では、増え続けた人口により島の森林資源を使い切ってしまい、文明の崩壊が起こりました。日本も伝統的に木造建築が主流のため、石造りやレンガ造りの多い西洋建築と比較して、木材の消費が激しいのではないかと思われますが、じつはそうでもないのです。

レンガは粘土を固めて作られます。大昔は天日でレンガを乾燥させる日干しレンガの技術しかありませんでしたが、次第にレンガを窯で焼く焼成レンガが主流となります。その際、燃料として大量の薪が消費されることになります。木を加工して家を作るのと、レンガを焼いて家を作るのとでは、レンガを焼成するのに必要な薪のほうがはるかに多くの木材を消費します。レンガを使った家造りは紀元前から行われているので、ひょっとしたら、その頃から世界各地で森林破壊が始まっていたのかもしれません。そう考えると、建築の歴史は環境破壊の歴史ともいえるのです。

しかも、前回のコラムで見てきたように、日本のCO2排出量の約三分の一は建築物に由来するものといわれており、地球環境の保全を語るうえで、建物の環境性能を無視することはできません。

住宅性能評価

昨今、マンションを購入したり家を建てたりするときに「住宅性能評価」という言葉を耳にするかもしれません。これは、建築物を客観的な基準で評価する日本独自の制度(住宅性能表示制度)に基づくもので、住宅のさまざまな性能を等級によって示したものが「住宅性能評価書」です。

私たちは家電製品や自動車の購入を検討する際、多くはカタログに記載されたスペック(どれだけスピードが出るかや、燃費の良さなど)と価格のバランスを見て購入を決定すると思いますが、住宅性能評価書はそのカタログに書かれたスペック一覧のようなもので、次表の10項目で評価されます。

このうち、青い文字で示した⑤~⑧の項目は、省エネルギー性能など建物の環境性能を示す項目となっており、10項目中4項目が環境性能に関する評価となっています。これを見ても、建築物にとって環境性能はとても重要な要素であることが分かります。

この住宅性能表示制度に基づく住宅性能評価は、文字通りマンションや戸建てなどの住宅に対して適用される評価指標ですが、オフィスビルや特殊建築物(病院や学校、映画館など)には、こうした性能評価指標はないのでしょうか?

CASBEE

住宅以外にも使える建築物の環境性能評価指標は、世界中にいくつか存在します。世界で最初に開発された評価指標は、1990年に開発された英国のBREEAM(ブリーム:Building Research Establishment / Environmental Assessment Method)といわれるものです。1996 年には、米国で同様のしくみであるLEED (リード:Leadership in Energy and Environmental Design)が開発されました。

日本では、2002年にCASBEE(キャスビー:Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency(建築環境総合性能評価システム)という独自の評価指標が開発されています。

CASBEEは、2001年4月に国土交通省住宅局の支援で開発され、その後も、対象とする建築物の用途の追加やメンテナンスが継続的に行われています。日本のCASBEEも、英国のBREEAMや米国のLEEDと同様に、建物の環境性能をさまざまな側面から客観的に評価します。その結果は、「Sランク(素晴らしい)」「Aランク(大変良い)」「B+ランク(良い)」「B-ランク(やや劣る)」「Cランク(劣る)」の5段階でランク付けされ、その結果がグラフィカルに示されます。

出典:住宅・建築SDGs推進センター(IBEC)  
https://www.ibec.or.jp/CASBEE/

CASBEEは、政令指定都市をはじめ多くの自治体で利用されています。一部の自治体では、一定規模以上の建築物を建てる際に、環境計画書という書類の届出を義務付けていますが、その際にCASBEEによって作成する評価書の添付が必要となります。地方の自治体で利用されているCASBEEの一部は、その地域の気候や風土、歴史的背景や地域独自の条例などに応じてカスタマイズを施したものとなっており、より地域の実態を反映した環境性能評価ができるようになっています。

低炭素な街づくりの推進

地球温暖化への対策が人類共通の課題となっている今、CASBEEやLEEDなどの建物の環境性能評価に注目し、これを普及させ、その効果をわかり易い形で見える化することが求められています。そして、それを市場価値に結びつけることにより、環境配慮型建築物のさらなる創出につなげ、環境性能に優れる建物(グリーンビル)に対する投資を促進させ、低炭素な街づくりを推進していくことは、地球環境保全の観点からも重要なことです。皆様が、少しでも建物の環境性能について興味を持ってくだされば幸いです。

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