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コラム

第9回

「シン・建築教育」
【コストマネジメント編】

デジタル時代の建築教育とは

前回のコラムでは、バイオクライマティックデザインを例に環境建築分野における新たな建築教育、名付けて「シン・建築教育」について触れました。日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げていて、これにより、国内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指しています。したがって、これから社会で活躍する学生は、環境建築の知識やBIMを使った環境シミュレーション技術のスキルが必要不可欠なものとなります。

しかし、現状では環境配慮型の建築物を建てるには、普通の建物を建てるよりもお金がかかります。環境性能の良い建材は高価ですし、バイオクライマティックデザインの実現にもコストがかかります。これからの時代、このコストバランスを如何に上手く調整できるかが重要となります。

コストマネジメント教育

従来から、建築系の大学や専門学校では「建築生産」という名目で建築積算の授業は行われていました。一部の学校では、いわゆる“数量拾い”の実習も行われていますが、多くの学校では座学で積算という職能について紹介をするにとどまっています。建築積算には、バイオクライマティックデザインのような派手なアウトプットはなく、積算という職能自体が地味なイメージを持たれてしまうこともありました。

しかし、BIMの普及が急速に進む昨今、建築物の企画・設計から施工、維持管理に至る建設ワークフローの中で、一貫して流れていくのはコスト情報であり、コストマネジメントこそが、建設DXの推進において重要であるという認識が定着してきました。

BIMを活用した建設ワークフローとコストマネジメントの概念

(国土交通省建築BIM推進会議資料を参考に作成)

建築情報処理の視点で行う積算の授業

こうした中、新しい建築コストマネジメント教育の取り組みが始まりました。この取り組みは、 一般社団法人 BIM教育普及機構(略称:BIMEO)が企画し、東京工芸大学(https://www.t-kougei.ac.jp)の建築コースを実証実験の場として、今年度(2023年度)から新たに始まったものです。授業は、我が国唯一の建築コストの職能集団である 公益社団法人 日本建築積算協会(略称:BSIJ)がコンテンツを提供し、協栄産業が積算ソフト「FKS」と見積作成ソフト「KYOEI COMPASS」を大学に提供することで実現しました。

この取り組みは、建通新聞(2023年6月8日付)や建設通信新聞(同6月14日付)、建設工業新聞(同6月16日付)に大きく取り上げられました。紙面には「わが国初の積算授業」や「建築情報処理の観点から積算学ぶ~全国初の試み~」などの文字が並び、BIMを使った新しい時代の積算授業として話題となりました

BIMを使ったコストマネジメント教育

この新しい授業は、川上から川下に向かう建築情報の流通とコストマネジメントの関係を、建築積算という仕事に関連付けながら、実際に実務で利用されるBIM連携積算ソフト「FKS」を使って学習するという、全国でも例を見ない試みとして実施されました。

これまで、大学や専門学校などで行われていた建築積算の授業は、建築生産の枠組みにおける、企画から設計、施工、維持管理などの一連の生産プロセスの一つとして扱われ、主に座学での講義にとどまっていました。しかし、建設DXの推進が進む今、生産プロセスにおける情報流通や、BIMを活用した設計などを扱う建築情報処理の授業として、建築積算を学ぶ重要性が指摘されていました。しかし、だれがそうした授業を企画し、どこの教育機関で実施するか、そして何よりもソフトウェアなどの準備をどうするかといった問題がなかなかクリアできず、こうした取り組みが実現に至ることはありませんでした。

産・官・学の連携で
「シン・建築教育」が実現

そして今回、BIM教育と実務の連携を重要テーマの一つに挙げる BIMEO が、新しい時代のBIM教育のしくみを企画し、建築積算士補制度などを通して、積算やコストマネジメントを学ぶ機会の創出に取り組んできた BSIJ がコンテンツを提供、そこに東京工芸大学が場を提供する形で、「シン・建築教育」の土台作りができました。

しかし、肝心のソフトウェア環境をどうするか。限られた大学の予算では少人数分のソフトウェアを準備することはできますが、これでは新時代を担う学生に遍く質の高い教育を届けることができません。国連のSDGsにも「4.質の高い教育をみんなに」と掲げられているように、できるだけ多くの学生に優良な建築教育を届けたいのですが…。

ここで、協栄産業に声がかかりました。協栄産業は大学の要請に賛同し、今回150本のBIM連携積算ソフト「FKS」と見積作成ソフト「KYOEI COMPASS」を無償提供することで合意しました。こうして、すべてのコマが揃うことになり、日本初となる今回の取り組みが実現することとなったのです。東京工芸大学では、今回240人の学生がこの授業を受講しました。授業後に実施した学生アンケートでは、「建築積算に興味を持った」といった感想や「卒業後にBIMとFKSを使った設計をしてみたい」といった前向きな意見が多くみられ、この授業が学生にとっても新鮮かつ有意義であったことが実証されました。

 BIMEO BSIJ は、今後もこうした活動を進め、今回の授業をよりブラッシュアップして他校へも展開していきたいと語っています。

この取り組みにご興味を持たれた方は、ぜひ BIMEO もしくは BSIJ 、または 協栄産業 までお問い合わせください。

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