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コラム

第8回

「バイオクライマティックデザイン」-2-

快適な住まいを創る
バイオクライマティックデザイン

前回のコラムでは、バイオクライマティックデザインの基本的な考え方について触れました。バイオクライマティックデザインは、その土地の気候条件を最大限に活用し、快適な居住環境を実現するためのデザイン手法の一つです。寒い地域では、建物の気密性を高めて冷たい外気が家の中に入ってこないような工夫をしますし、暑い地域では、風通しを良くして家の中に熱や湿気がこもらないような建物デザインが必要とされます。

バイオクライマティックデザインなどとカタカナを使うと、なにか仰々しいイメージがしますが、地域の気候特性を最大限に活かした建築デザインは、昔からその地域で活躍する大工さんが当たり前のようにやってきたことなのです。しかし、いまそうした伝統技術の継承が、絶たれようとしています。地域の腕利きの大工さんが「もう俺の代で商売をたたもう」ということになれば、いったい誰がその地域特有のバイオクライマティックデザインを受け継いでいけばよいのでしょうか。

BIMを使った
バイオクライマティックデザイン

その一つの解決策が、BIMの活用です。BIMはCADと違い、様々な属性情報を持つことができます。その属性情報の中に、建物を建てる地域の温度や湿度、日照条件などを入れ込むことも可能です。さらに、「FKS」のようなBIM連動型の積算ソフトと連携し、コスト算出のために入力する部材データに構成材料の熱容量データ等を付加すれば、バイオクライマティックデザインに必要な計算を自動的に算出することも、将来的には可能となるでしょう。

腕利きの大工さんが長年の経験で培った、その地域に最適な建築デザイン、つまりバイオクライマティックデザインが、BIMという新しい技術を使って、将来に技術継承されていくことが可能となるのです。ただし、それにはいくつかの技術的なハードルも指摘されています。

一つは、腕利きの大工さんが持つ暗黙知をいかに形式知化しデータ化するかという問題。これは、いま活躍中の大工さんが現役のうちに、如何にその技術や知識をデジタル化できるかという取り組みにかかっています。現在、ディープラーニングというAI(人工知能)を育てるための技術を利用し、建築業界の技術継承問題を解決しようという取り組みもありますので、その成果にも期待したいところです。

もう一つは、教育の問題です。仮に大工さんの技術継承問題が上手くデジタル化で解決できたとしても、それを活用できる人材が育っていなければ、せっかくのデータが宝の持ち腐れとなってしまいます。このため、いまBIMを利用した建築設計教育の重要性と必要性が問われているのです。

BIMを用いた「シン・建築教育」

近年、大学や専門学校などの建築系学科で、BIMを使った専門教育が始まりつつあります。BIMは建物全体を3次元でモデリングすることから、2次元のCAD図面では難しかった建物の構造や設備、またそれらと意匠との関係が理解しやすくなり、総合的な建築知識の習得に効果があるとされ、建築設計教育に大きな変革をもたらすともいわれています。このコラムでは、これを新しい時代の建築教育手法という意味で、「シン・建築教育」と呼ぶことにします。

シン・建築教育を取り入れた学校では、コンピュータプログラムによって最適な建築デザインを作成する“アルゴリズミックデザイン”を設計課題に取り入れたり、シミュレーションソフトウェアを使って、バイオクライマティックデザインを学ぶなど、非常に高度で実践的な授業も始まっています。教室にレーザーカッターやNC加工機を常設し、デジタルファブリケーション(デジタルでモノを考え創作する技術)を実践する学校も出てきました。まさに、建築教育のデジタル化です。

BIMを使ったシン・建築教育では、図面の表現テクニックだけにとらわれることなく、建築物そのものの構造や仕組みを理解することに注力しやすくなります。BIMで建物を入力するには、配置する部材が建築的に納まっていないとエラーとなるため、学生が建物の構造やデザインを基礎から学習するにはとても好都合なのです。また「FKS」に代表される積算ソフトと連携することで、建築設計で重要とされるコストマネジメントの考え方も身に着けることができるようになります。これまでの手書きやCAD演習では成しえなかった様々なことが、BIMを使ったシン・建築教育ではできるようになります。さらに、前段で述べたように、BIMの持つ属性データを使ってバイオクライマティックデザインのような高度な設計を学ぶこともできるため、腕利き大工さんの技術継承問題の解決に、このシン・建築教育が切り札となる可能性もあるのです。

BIMを活用したバイオクライマティックデザインの授業風景

(画像提供:東京工芸大学)

シン・建築教育における
コストマネジメント教育の取組み

いま始まりつつあるシン・建築教育は、バイオクライマティックデザインのような環境デザインだけにとどまるものではありません。バイオクライマティックデザインと同様に注目されているのは、BIMを活用した建築コストマネジメント教育です。そして今年(2023年6月)、新たな取り組みが始まろうとしています。

その取り組みとは、日本のBIM教育を先導する 一般社団法人 BIM教育普及機構 が企画し、建築コストの専門家集団である 公益社団法人 日本建築積算協会 が協力する形で、東京工芸大学工学部(https://www.t-kougei.ac.jp)の建築コースを実証実験の場として初めて実施する「建築情報教育におけるBIMの活用と積算」の授業です。この公益法人を中心とした、新しいシン・建築教育の取り組みの中で、協栄産業は、BIM連動型積算ソフト「FKS」と見積ソフト「KYOEI COMPASS」のフルライセンスを教育用として大学に無償提供し、同時に講師も派遣するなど、この活動をソフトウェア面から強力に支援しています。

次回のコラムでは、この「シン・建築教育【 コストマネジメント編 】」をレポートしたいと思います。

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