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コラム

第11回

「地球温暖化と
ヒートアイランド現象」

今年は記録的な猛暑

気象庁の発表によると、今年(2023年)の夏は全国的に平年より気温が高い傾向にあり、暑さのピークは7月下旬から8月初旬になると予報されています。みなさんがこのコラムをご覧いただいている今が、まさに今年の夏の暑さのピークとなっています。

しかし、この暑さは短期的なものではありません。現在の地球は、過去1400年でもっとも暑くなっているといわれています。地球規模で気温や海水温が上昇し、氷河や氷床が縮小したり、洪水や竜巻など大規模な気象災害が頻繁に発生する現象、すなわち地球温暖化現象が加速しているのです。

しかも、平均的な気温の上昇のみならず、異常高温(熱波)や大雨・干ばつの増加などのさまざまな気候の変化をともない、その影響は、生態系や人間社会に顕著に現れ始めています。近い将来、地球の気温はさらに上昇すると予想され、地球の生態系にさらに深刻な影響が生じると考えられています。

世界の年平均気温の偏差の経年変化

(出典:気象庁 https://www.jma.go.jp/jma/index.html)

地球温暖化の防止に建築ができること

地球温暖化防止策の取組が世界各国で進む中、日本でも2009年に「建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン2050(※)」が提言されました。これは、2050年までに既存建築も含めたすべての建築のカーボンニュートラル化を目指すというものですが、13年が経過した今、この提言の実現はおろか、提言自体が忘れ去られている感があります。結果論になってしまいますが、この13年間に建築業界がもっとマジメに地球温暖化問題に取り組んでいたら、今年の夏の暑さも違っていたかもしれません。

ただし、建築業界がこの13年間まったく何もしてこなかったわけではなく、この提言を受けて、ゼネコン各社はゼロエネルギービル(ZEB)の実現に関するさまざまな技術開発を行い、ハウスメーカーはライフサイクルカーボンマイナス(LCCM)住宅の開発に着手するなどの取組みがなされ、特定の分野では大きな成果をあげています。このコラムの第7回第8回で取上げたバイオクライマティックデザインという設計手法も、こうした地球温暖化現象に抑制に有効な手段の一つとして注目されています。

※日本建築学会:建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン 提言(2009.12.22)
  提言書PDF https://www.aij.or.jp/scripts/request/document/20091222-1.pdf

地域の気候特性を読むことで暑さも防げる?

バイオクライマティックデザインを実現するにあたって最初に必要なことは、地域の気候特性を読むこと、そしてその土地の地勢や町の歴史を読み解くことです。その土地で過去に起こった災害の記録やその町に古くから伝わる伝説や昔話、その町に住む人が大切にしてきた伝承や信仰などを見聞きし調べ、その土地のもつ“チカラ”を活かした環境設計にとりくむことが重要なのです。

建築物やその集合体である都市は、もともと地域の気候・風土に根ざしたものでなければなりません。寒い土地には積雪に耐える建物構造や断熱に関する知恵があり、暑い土地には強烈な日差しを避けて風通しを良くする、昔からの住まい方の工夫があります。自然との持続可能な関係を目指す社会(環境共生社会)の実現には、こうした住まい方の原点に立ち返る必要があります。地域の気候や風土を理解し、そのポテンシャルを最大限に生かした街づくりが求められるのです。

都市の気候とヒートアイランド現象

現代の都市においては、都市に形成される特有な気候(都市気候)について、その形成要因と特徴を考える必要があります。都市化に起因する環境問題はさまざま存在しますが、この暑い夏に真っ先に思いつくのは、ヒートアイランド現象でしょう。今年も全国の都市で、体温を超えるような猛暑日が連日記録されています。

ヒートアイランド現象とは、都市部の気温が郊外に比べて高くなる現象をいい、その高温域が都市を中心に島状に分布することからこのように呼ばれるようになりました。

ヒートアイランド現象は、単に都市部は田舎より暑いというだけではありません。夏場における都市部のエネルギー需要の増加による電力供給のひっ迫や、熱的快適性が損なわれることによる生産性の低下(暑くて仕事にならない状態)、加えて発電所がフル稼働することなどによる温暖化ガス排出量の増加や大気汚染の助長など、多くの問題を引き起こす要因にもなっていると考えられます。

次図は、気象庁が公表している、関東地方におけるヒートアイランド現象に関する解説の一部です。同庁に蓄積されている最近9年間のシミュレーション結果を用いて計算した結果を、同庁が科学的知見に基づいて解説したもので、年に1回更新されています。

関東地方における9年間(2009~2017年)の
気象データを平均した8月の平均気温(左図、単位:℃)と都市化の影響による平均気温の変化(右図、単位:℃)の分布

(出典:気象庁 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/index_himr.html)

この図を見ると一目瞭然。まさに都市部の温度が島(アイランド)状に高くなっていることがわかります。これが典型的なヒートアイランド現象です。近年では世界中で記録的な猛暑が報告されており、特に都市部における異常な高温状態は、熱中症患者の急激な増加を引き起こし、日本国内においても連日マスコミを賑わす大きな社会問題となっています。

ヒートアイランド現象と地球温暖化現象は、それを引き起こす要因も影響する範囲や規模も異なります。しかし、人間の活動が原因で気温の上昇をもたらすという点では同じです。私たちに今できることはなにか、そして、どうしたら温暖化現象を解決できるのか。毎日猛暑が続くこの時期だからこそ、もういちど原点に返って考えてみるのは如何でしょう?

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