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コラム

第26回

「同一性から紐解く
建設分類体系とBIM」

「同一性」から考える建設業界

前回のコラムでは、「同一性」という哲学的な概念を通して、物事の変化と継続性について考察を深めました。形が変わっても、構成要素が変わっても、私たちは「同じ」だと感じることがあります。それは、社会的な承認や、より抽象的な「本質」のようなものが存在するからかもしれません。

この「同一性」の概念は、建設業界においても重要な意味を持ちます。建物は、設計、施工、維持管理、そして解体に至るまで、長いライフサイクルの中で常に変化し続けます。増築や改修が行われ、設備が更新され、所有者が変わることさえあります。それでも、私たちはそれを「同じ建物」として認識し、利用しています。

建設分類体系

ここで重要となるのが、建設分類体系の存在です。近年、BIMの普及とともに注目を集めている建設分類体系には、米国で一般的なOmniclass(オムニクラス)、英国発祥のUniclass(ユニクラス)、そして国際標準であるISO12006-2といったものがあります。

これらの建設分類体系は、建物のあらゆる要素を網羅的に分類し、それぞれに固有のコードを割り当てることで、建物の情報を一貫性を持って管理することを可能にします。これは、建物のライフサイクル全体を通して、その「同一性」を維持するための重要な基盤となります。

例えば、Omniclassは、建物の要素を15のテーブルに分類し、それぞれをさらに詳細なレベルに細分化することで、建物のあらゆる側面をカバーしています。一方、Uniclassは、要素、システム、製品などの異なる視点から建物を分類し、柔軟な情報管理を可能にしています。そして、ISO12006-2は、国際的な標準規格として、異なる分類体系間の連携を促進し、情報交換の効率化を図っています。これらの建設分類体系を用いることで、建物の改修や更新などの履歴を明確に追跡し、維持管理を効率的に行うことが可能になります。

例えば、ある建物の屋根が改修されたとしましょう。建設分類体系を用いれば、改修前の屋根と改修後の屋根を同一の分類コードで紐付けることができます。これにより、過去の改修内容や使用材料などを容易に把握し、今後のメンテナンス計画に役立てることができます。

さらに、BIM(Building Information Modeling)と連携することで、これらの建設分類体系は真価を発揮します。BIMモデルの各要素に分類コードを付与することで、BIMモデルの情報量を飛躍的に向上させ、設計、施工、維持管理の各段階における情報共有と連携を促進することができます。

このように、建設分類体系は、建物の「同一性」を維持し、そのライフサイクル全体を通して価値を高めるための重要なツールと言えるでしょう。それは、単なる分類体系にとどまらず、建物に関わる全てのステークホルダーにとって共通の言語となり、情報共有と協調を促進するための基盤となるのです。

建設分類体系とBIM

建設分類体系は、BIMとの親和性が高いと言われています。BIMは、建物の3次元モデルに様々な属性情報を付与することで、設計、施工、維持管理のプロセス全体を効率化するための技術ですが、建設分類体系を用いてBIMモデルの構成要素をキチンと分類することで、モデルの精度と信頼性を大きく向上させることができるようになります。

例えば、BIMモデル上で設備の更新を行う際、建設分類体系に基づいて設備の分類コードを指定することで、適切な設備機器や部材を選定し、干渉チェックなどの設計検証を効率的に行うことができます。また、維持管理段階においても、分類コードを基に設備機器のメンテナンス履歴や交換時期などを容易に把握することができるようになります。施設点検用のシステムなどでは、すでにこうした考え方を採用している先進的なソフトウェアもあります。

BIMは同一性を維持するためのツール?

建設分類体系とBIMの組合せは、建物のライフサイクル全体を通して情報を一貫して管理し、建物の「同一性」を維持するための強力なツールであると言えるでしょう。それは、建物の変化を正確に捉え、将来の変化にも柔軟に対応するための基盤となります。

そして、それは単に建物の管理効率化だけにとどまりません。建物の歴史や記憶を継承し、未来へと繋いでいくことにも貢献します。建物の「同一性」を維持することは、そこに込められた人々の想いや努力を尊重し、その想いを次の世代へと引き継いでいくことでもあるのです。

建設分類体系とBIMは、建物の「過去」、「現在」、そして「未来」を繋ぐ架け橋と言えるでしょう。それは、建設業界が単なるモノづくりではなく、文化や価値を創造する産業であることを示しています。そして、それは私たちが「同一性」という概念を通して、物事の変化と継続性について深く考えるきっかけを与えてくれるのです。

同一性の定義

前回のコラムで皆さんと考察したように、「同一性」の定義は非常に難しく、客観的な基準はありません。 しかし、社会的な承認が重要な要素であることは間違いありません。私たちが何かを「同じ」だと認識するのは、それが社会的に受け入れられているからです。

建設業界に限らず、社会全体が変化のスピードを加速させている今、この「同一性」の概念はますます重要性を増していくでしょう。私たちは、変化を受け入れながらも、本当に大切なものを守り、未来へと繋いでいくために、この「テセウスの船」という難解な問いと向き合い続ける必要があるのです。

未来の建築物は…

もしかしたら、未来の建築物は、AI(人工知能)によって自律的に改修や増築を行い、その姿をダイナミックに変え続けるようになっているかもしれません。そんな時、私たちはそれを「同じ建物」だと認識するのでしょうか? それとも、全く新しい「何か」として受け入れるのでしょうか? それは、未来の私たちが「同一性」をどのように定義するかによって決まるのかもしれません。まるでSF映画のような展開ですが、昨今のAIの進化を見ると、案外そう遠くない未来なのかもしれません。

この画像は、画像生成AIによって作成された画像です。

建設分類体系とBIMは、そんな未来に向けて、私たちが建物の「同一性」を問い直し、新たな価値を創造していくための、頼もしい道しるべとなるでしょう。

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