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コラム

第12回

「ヒートアイランド
ポテンシャル」

まだまだ暑い日が続きます

前回のコラムでは、地球温暖化とヒートアイランド現象について触れました。今回は、ヒートアイランド現象をもう少し詳しく見ていきたいと思います。

気象庁発表の季節予報(https://www.jma.go.jp/bosai/season/)によると、2023年の秋も気温の高い日が続くようです。向こう1か月(2023年8月~9月)の「特に注意を要する事項」として、「北・東日本では、期間の前半は気温がかなり高くなる所が多いでしょう」と警告しています。またこの時期は台風も心配です。今年も大型の台風がいくつも列島を襲い、各地に甚大な被害をもたらしました。全国的に異常な高温が続いたり、巨大な台風が頻発するのは、やはり地球温暖化の影響なのかもしれません。

ヒートアイランド現象と日本の都市

地球温暖化現象とヒートアイランド現象は、それを引き起こす要因や規模は異なりますが、どちらの現象も人間の社会活動がその原因です。

日本では人口の約6割が都市部に住んでいると言われています。特に東京圏には、日本の総人口の約3割が居住する(総務省(2019)住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(平成31年1月1日現在))とされ、我が国の都市への人口集中の度合いは、世界の都市の中でも特に高くなっているといわれます。このため、日本では地球温暖化現象の対策に加えて、都市部でのヒートアイランド現象抑制が喫緊の課題となっているのです。

ヒートアイランド現象を測るモノサシ

ヒートアイランド現象を測るために使用される指標には、いくつかの種類があります。そもそもヒートアイランドとは、都市部とその周辺の地域との気温差のことを言っています。したがって、都市部と周辺の農村地域の気温をそれぞれ測って比較すれば、それがそのままヒートアイランド現象を測るモノサシになるわけです。気象庁や民間気象会社のホームページには、各地域の気温が市町村レベルでかなり細かく掲載されていますので、ヒートアイランドは誰でも簡単に計算することができます。子供の夏休みの自由研究ネタとしても使えそうですね。

近年ではBIM(Building Information Modeling)の普及によって、建築物が都市にどのような熱的影響を与えるか、コンピュータを使ってシミュレーションをすることもできるようになりました。こうしたシミュレーションソフトウェアで指標としてよく用いられるのが、平均放射温度(MRT:Mean Radiant Temperature)やヒートアイランドポテンシャル(HIP:Heat Island Potential)といったものです。

ヒートアイランドポテンシャル

MRTやHIPという指標は、建物や地面などの物体の表面温度分布から求められます。CADやBIMが普及する以前は、建物や街の快適性などを数値的な根拠をもって客観的に示すことはなかなか困難でした。街区全体の温度を可視化するには、時間のかかる計算が必要となるため、不動産価値に直接影響を及ぼさないヒートアイランド現象対策などは、どうしても後回しになってしまうことが多かったのです。

不動産屋さんがマンションを売り込む際に「この建物は街のヒートアイランド現象に影響を与えにくい設計をしています」なんて説明は、そうそうしないと思います。つまり、これまでの街づくりにおいては、建物の熱的な影響というものをあまり考慮してこなかったわけです。その結果が、この暑い夏の要因の一つになっているのかもしれません。少なくとも、コンクリートやアスファルトで覆われた都市の夏が、とても暑いことは誰もが体感しています。

これだけ暑い夏が続き、台風や洪水が頻発する異常気象を目の当たりにすると、建築の専門家でなくても「これまでの街づくりは正しかったのだろうか」と疑問を持つと思います。街づくりの基本として、開発敷地内の環境に配慮することはもちろん、開発行為によって周辺環境にできるだけ悪影響を与えないこともまた重要です。今後の都市計画においては、ヒートアイランドポテンシャルなどの指標を建築設計に活かすことによって、都市の熱環境を議論することが求められるようになるでしょう。

都市のアスファルトを
すべて芝生にしてみたら…

ここで、ちょっとBIMを使ってシミュレーションをしてみたいと思います。ある街区の土地被覆(建物が建つ敷地や道路など)を、アスファルトからすべて芝生にしてみたらどうなるか試してみましょう。はたして、街の温度はどのように変化するのでしょうか?

計算を簡略化するため、街区は単純な四角形とし、建物をランダムに配置したBIMモデルを作成します。このモデルは、地方都市の雑居ビルが立ち並ぶ街並みを模したものと考えてください。

このモデルのHIP(ヒートアイランドポテンシャル)を計算してみます。気象条件は、8月の真夏日とし気温は32.3℃に設定しました。このモデルを二つ作成し、一方のモデルは建物の敷地や道路部分を全てアスファルトとし、もう一方はすべて芝生とします。先ずは色で温度を可視化するヒートマップモデルを出力してみます。その結果、アスファルトで地面が覆われたモデルは温度が高く真っ赤ですが、芝生モデルは涼しげに見えます。

計算結果を詳しく見ると、アスファルトモデルのHIPは気温とほぼ同じ32℃ほどに上昇していますが、芝生モデルのほうは16℃ほどに留まっています。つまり、緑地(芝生)が気温を下げ、ヒートアイランドを起こしていないのです。計算結果をグラフで出力すると一目瞭然。緑地が気温上昇を阻むチカラに、あらためて驚きます。

この計算モデルは都市を極端に簡略化したものですから、実際の街でアスファルトを芝生に置き換えても、これほどの効果が出ることはないでしょう。そもそも、道路が芝生では車は走りにくいですし、雨の日は泥だらけになってしまい都市としての機能は損なわれてしまいます。しかし、アスファルトやコンクリートで覆われた現在の都市は、私たちにとって居心地の良い場所となっているのでしょうか?

記録的な猛暑となったこの夏を振り返りながら、あらためて未来の都市デザインについて、いろいろと思いを巡らすのも面白いかもしれません。

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