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コラム

第23回

「改正省エネ法のインパクト」

改正省エネ法

2023年に改正された省エネ法(改正省エネ法)は、私たちの住まいに関する意識を大きく変える可能性があります。ザックリいうと、この法律は2050年のカーボンニュートラル実現に向け、建築物における省エネ対策を強化するため、2025年4月以降、新築住宅をはじめとする建築物の全てに省エネ基準への適合を義務化するというものです。

この2050年のカーボンニュートラル実現というのは、2020年10月に、当時の菅義偉首相が所信表明演説で宣言したもので、日本が国際社会の一員として、地球温暖化対策に積極的に貢献していく姿勢を示したものです。いわば全世界に向けて、日本が約束をしたということですね。その後、この約束は国内の経済・社会システムの変革を促す大きな目標となり、今回の改正省エネ法の施行にもつながっているのです。

段階的に施行される改正省エネ法

この法律は、これまで省エネ法と呼ばれていた「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」を大幅に改正したもので、正式名称は「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」という長いものです。法律をつくる人って、どうしていつも長い名前を付けたがるんでしょうか?

今回の改正では、企業や工場などに対する省エネ対策の強化や、非化石エネルギーへの転換促進などが盛り込まれました。またこの法律は段階的に施行されるのも特徴です。2025年4月1日には、 住宅や建築物の省エネ基準への適合義務化が完全施行されます。これにより、全ての新築住宅や建築物は省エネ基準を満たす必要が生じます。

さらに、2030年までには、新築住宅において、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)レベルの省エネ性能の確保が目標とされ、住宅以外の新築建築物は2050年までにZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)レベルの省エネ性能確保を目指すという、野心的な目標も掲げられています。改正省エネ法の詳細については、国土交通省のウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/shoenehou.html)で確認できます。

ホントに実現できるの?

では、具体的にどのようにしてこの高い目標を達成していけば良いのでしょうか? そこで今、注目を集めているのが、BIM(Building Information Modeling)建築積算ソフトの連携、そしてAI(人工知能)の活用です。

BIMは、建物の設計から施工、維持管理まで、全てを3次元モデルで管理できるシステムです。建物の設計図が立体的に、そして詳細な情報を含んで可視化されるため、設計段階から建物の性能をシミュレーションしたり、施工プロセスを効率化したりすることができます。

一方、建築積算ソフトは、BIMモデルから必要な情報を抽出して、建築コストを計算するツールです。BIMと連携することで、設計変更に伴うコスト変動をリアルタイムに把握し、予算内で最適な設計案を選択することが可能になります。さらに、GHG(温室効果ガス)の排出量原単位を関連付ければ、改正省エネ法に対応するLCC(ライフサイクルコスト)の算出も可能となります。このへんの詳細は、別の機会にこのコラムでお話ししようと思います。

AIの活用

BIMと建築積算ソフトの連携に加え、さらにAIを活用することにより、これらのプロセスはさらに進化します。例えば、AIは過去の膨大なデータから、最適な断熱材や窓の種類、設備機器などを提案することができます。また、建物のエネルギー消費量を予測し、省エネ性能を向上させるためのアドバイスも可能です。BIM、積算ソフト、そしてAIが連携することで、省エネ性能の高い建築物を、コストを抑えながら、より効率的に実現できるようになるでしょう。

改正省エネ法のインパクト

今回の改正省エネ法の施行は、建築業界にとって大きな転換点となるでしょう。省エネ基準を満たす住宅への需要が高まることは間違いなく、それに対応できるかどうかが、今後のビジネスを左右すると言っても過言ではありません。

改正省エネ法が完全施行される前に、私たち建築業界は早急な準備が必要です。BIM、積算ソフト、そしてAIといったテクノロジーを活用することで、環境に優しく、快適で、経済的な住まいを実現できることを、私たちは建物オーナーにしっかりと伝えなければなりません。

さらに、これらのテクノロジーは、建築業界全体の効率化と最適化にも大きく貢献します。改正省エネ法を深く理解し、その知識を活かせるスキルとして身につけることは、これからの建築業界で生き残るために不可欠となるでしょう。

改正省エネ法を解決する3つのテクノロジー

AIの進化は日進月歩であり、建築分野への応用もさらに加速していくことが予想されます。AIが建築設計をサポートしたり、施工現場でロボットやドローンが作業を行う日が来るのも、そう遠い未来ではありません

イラスト出典:建築・BIMの教科書 改訂版
(日刊建設通信新聞社 刊)

今回の改正省エネ法をきっかけに、建築業界はBIM、積算ソフト、AIという3つのテクノロジーを駆使した、大きな変革期を迎えることになりました。これらは、カーボンニュートラルを実現し、持続可能な社会を築くための、未来の街づくりに欠かせないツールです。

もしかすると、「BIMやAIはまだ自分には関係ない」と感じている方がいらっしゃるかもしれません。しかし、2050年の未来都市を想像してみてください。そこでは、建物がエネルギーを効率的に利用し、AIが都市全体のインフラを最適化することで、人々が快適かつ環境に優しい生活を送っています。

BIMやAIは、そんな未来を現実にするための、強力な武器となるでしょう。この変革期をチャンスと捉え、積極的にこれらのテクノロジーを活用していくことで、私たちは未来の街づくりをリードし、より良い社会を築いていくことができるはずです。

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