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コラム

第21回

「ラプラス・プロジェクト」

新年度の始まり

陽光が日に日に輝きを増し、街路樹の芽吹きも勢いを増す今日この頃。真新しいランドセルを背負った子供たちが、元気な声で街を行き交っています。新年度を迎えて慌ただしい日々を送る中、ふと立ち止まって深呼吸をすれば、春の訪れと共に、新しい生活が始まった高揚感や期待感を感じます。そこで、今回のコラムでは、SF(サイエンスフィクション)風に話を進めたいと思います。

ラプラスの悪魔

前回のコラムでは、ラプラスの悪魔について触れました。これは、フランスの数学者ラプラスが提唱した超越的な存在の概念で、物理法則に基づいて未来の全てを完全に予測することができるというものでした。

ラプラスは、宇宙の全ての出来事は物理法則によって決定されており、偶然というものは存在しないと主張しました。そのため、ラプラスの悪魔のような存在が誕生すれば、未来を完全に予測することが可能になると考えたワケです。

未来を予見する悪魔のツール

ここは202X年の東京湾岸エリア。 再開発が進むウォーターフロントエリアに、未来都市を思わせる高層ビル群が立ち上がりつつあった。このプロジェクトは、「ラプラス・プロジェクト」と呼ばれ、建設業界におけるBIM(Building Information Modeling)の革新的な活用で注目を集めている。

プロジェクトを率いるのは、若き建築家“キョウエイ・ミライ”だ。彼女はBIMを単なる設計ツールではなく、未来を予見する装置として活用している。ある日、ミライはプロジェクトチーム全員を会議室に集めてこういった。

「皆さんは、ラプラスの悪魔をご存知でしょうか?」

ミライの問いに、チームメンバーはそろって首を傾げた。

「ラプラスの悪魔とは、宇宙のあらゆる情報を把握し、未来を完璧に予知できる存在です。そして私は、BIMがその悪魔に近づくことのできるツールだと考えています。」

ミライは、BIMで構築された3Dホログラムとともに、さまざまなデータを壁面に映し出した。そこには、完成後の高層ビル群だけではなく、周辺の街並みや人々の動き、さらには建物のエネルギー効率や都市全体のカーボン排出量まで、驚くほど詳細かつ膨大な情報が描き込まれていた。ミライが示したのは、デジタルツインといわれる、都市の未来像である。

「このデジタルツインを使えば、建設中の問題点を事前に予測し、最適な解決策を導き出すことができます。さらに、建物の完成後の運用や維持管理まで、全てシミュレーションできるのです。BIMこそ、未来を予見することのできるラプラスの悪魔なのです。」

チームメンバーは、ミライの言葉に圧倒された。BIMは単なる設計ツールではなく、未来を創造する力を持っているのだ。

ラプラス・プロジェクトの成功と課題

ラプラス・プロジェクトは、ドローンや自走式3Dプリンタといった新技術を駆使し、これまでの伝統的な建設プロジェクトの半分以下の工期で完成を迎えた。 完成した高層ビル群は、まるで未来都市のような美しさだった。

ミライの言うとおり、BIMのシミュレーション機能によって予測された問題点は、デジタルツインによって事前にすべて解決され、このプロジェクトは、ラプラスの悪魔のように、まるで未来を完全に予見しているかのごとく人々の目に映った。

イラスト出典:建築・BIMの教科書 改訂版
(日刊建設通信新聞社 刊)

ラプラス・プロジェクトの成功は、建設業界に大きな衝撃を与えた。この成功によって、BIMは単なる設計ツールではなく、未来を切り開くためのツールとして広く認識されるようになったのである。

かくして、キョウエイ・ミライは、ラプラスの悪魔に近づくことに成功した。 しかし、彼女は同時に、未来を予知することの責任を感じていた。

「未来は、私たちの手で創造するもの。BIMは、そのための強力なツールであると同時に、使い方を誤れば、未来を支配する武器にもなり得る。まさに、BIMは悪魔の道具ね。」

ラプラス・プロジェクトの成功は、BIMの可能性を世界に示しただけではなく、未来を創造する責任についても私たちに問いかけている。ラプラスの悪魔を、私たち人類は、はたして使いこなすことができるのだろうか…

BIMの普及問題という、別の悪魔

ラプラス・プロジェクトの成功は、建設業界に大きな衝撃を与えました(あくまでも未来の話ですが…)。しかし、2024年の現状を見ると、まだまだBIMが建設業界全体に普及していないという問題があります。BIMの普及には、導入コストや人材育成など多くの課題があり、これが中小企業にとって大きなハードルとなっています。

国土交通省は、建築BIM推進会議でBIMの効用について議論を重ね、BIM加速化事業で中小企業へのBIM導入を後押ししようとしています。しかし、建設業界全体にBIMが普及し、ラプラス・プロジェクトのような事例が出てくるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。

そこで、キョウエイ・ミライは、BIMの恩恵を中小企業にも届けたいと考え、ラプラス・プロジェクトの成功体験をベースに「BIM普及プロジェクト」を立ち上げることにしました。BIM普及プロジェクトとは、いったいどんな施策なのか、ミライは次に何を仕掛けてくるのか… 続きは、次回のコラムで!

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