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コラム

第19回

2023年度のまとめ(2)
「建設DXとBIM」

2023年度の振り返り

2023年度も、残りわずかとなりました。前回のコラムで見てきたように、日本では古来より3月を年度末としている場合が多いので、今回は2023年度の“建設DXとBIM”に関連する事項を振り返ってみましょう。

建設DX元年

2023年度は、建設業界において本格的にDX(デジタルトランスフォーメーション)が普及し始めた年、いわゆる「建設DX元年」として、私たちの記憶に残るかもしれません。建設DXを牽引するのが、BIMに代表されるデジタル技術です。

BIMは、3Dモデルをベースに建物の形状だけでなく、構造、設備、材料、コストなどの情報を一元管理する技術です。従来の2D図面とは異なり、高度な情報連携が可能で、設計、施工、維持管理の各段階で大きなメリットをもたらすと言われています。

国土交通省が2022年度に創設した「建築BIM加速化事業」が2023年度になって広く認識され始めると、これまではBIMの導入に消極的だった中小規模の工務店や設計事務所などが、BIMの導入やDXの推進に着手し始めます。これが、2023年度は「建設DX元年」として私たちの記憶に残るかもしれないという理由のひとつです。

建築BIM加速化事業

しかし、なぜ国土交通省は今になって、建築BIM加速化事業などの施策に力を入れているのでしょうか?建築BIM加速化事業のホームページ(https://bim-shien.jp/)には、このように書かれています。

“本補助事業は、建築BIMの社会実装の更なる加速化により、官民連携のデジタルトランスフォーメーション投資を推進する環境整備を図るため、一定の要件を満たす建築物を整備する新築プロジェクトにおいて、複数の事業者が連携して建築BIMデータの作成等を行う場合に、その設計費及び建設工事費に対して国が民間事業者等に補助を行うものです。”

このうたい文句に「官民連携のデジタルトランスフォーメーション投資を推進」とあるように、キーワードはデジタルトランスフォーメーション、つまりDXです。この事業には、80億円という国費が投じられていて、我が国のDX推進に対する、国の本気度が感じられます。2024年2月9日時点での執行額は約53億円、国土交通省が準備した額の65.5%となっています。ということは、残りは約27億円ですから、ご興味のある方は早めに申請を行った方が良いでしょう。ちなみに、協栄産業の建設系各種ソフトウェアも、この事業の補助金対象となっていますので、ぜひご活用ください。

DX推進のカギは不動産?

今、世界中のあらゆる分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれています。これは日本も例外ではありません。デジタル庁の設置やマイナンバー制度の普及促進も、日本のDX施策の一部です。しかし、日本の建設業界に目を向けると、そのDX化の取り組みは決して楽観視できる状況ではありません。

なぜ今、80億円もの国費を使って、BIMの導入を加速する必要があるのでしょうか。その理由は、日本の財産の多くを占める不動産(=建築物)のデジタル化こそが、DX推進の鍵となるからなのです。

日本の総資産は約5000兆円(計算方法により諸説あり)といわれ、そのうち約8割を不動産が占めているといわれます。つまり、日本の財政基盤は、不動産に大きく依存しているというカタチになっているのです。そこで国土交通省は、建築BIMの普及促進に舵を切ったというワケですね。

BIMの導入メリット

BIMは、建物の形状や構造、設備などを3Dモデルで表現する技術です。従来の2D図面とは異なり、建物を立体的かに捉えることができ、BIMの持つ属性情報により、設計、施工、維持管理などの様々な工程で活用できると考えられています。

このコラムでは、これまで皆様と一緒にBIMのメリットについて、様々な角度から勉強をしてきましたが、ここでもう一度、おさらいしておきましょう。

こうしたBIM導入のメリットについては、国土交通省のBIM推進会議で実施された「BIMモデル事業」により、多くの企業でBIM導入事例が発表され、その効果が実証されています。このモデル事業では、先導事業者型、パートナー事業者型、中小事業者BIM試行型という3つのカテゴリ別にモデル事業が実施されているため、皆様の参考となる取り組みがきっと見つかると思います。詳細は、国土交通省のホームページをご覧ください。
(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000178.html)

BIM導入の課題

BIMの導入加速は、日本のDX推進にとって不可欠な取り組みです。しかし、現状では多くの課題が存在することも事実です。その一つが、BIMを活用できる人材の不足です。BIMが急速に普及する一方で、設計者、施工者、維持管理者など、各分野におけるBIMの専門人材が不足圧倒的に不足しているのです。

国土交通省の調査(※1)によると、2020年時点で、BIMを「活用している」と回答した企業は全体の14.4%にとどまります。国土交通省のBIM人材育成目標は、2025年までに10万人が必要と設定されているのですが、このままではその達成が危ぶまれます。なぜ、これほどまでに人材が不足しているのでしょうか?

これは、日本の建築系大学などにおける、BIM教育プログラムの不足が原因であるとも言われています。国連のSDGsの4番目には「質の高い教育の 普及」が掲げられていますが、建設業界においても、まさにこの教育問題が喫緊の課題となっているのです。

そんな中、2023年6月に協栄産業では、こうした課題に対処するため、日本初となる大学での「BIMと連携した建築積算の授業」を展開し、多くのメディアに取り上げられました。詳細は、第9回コラム「シン・建築教育」をご覧ください。

※1 国土交通省 “建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査 確定値”(令和3年1月国土交通省調べ)
(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001395118.pdf)

BIMの導入は未来への投資

BIMの導入には、短期的にはコストがかかります。そこで利用したいのが、「建築BIM加速化事業」です。この制度を上手に利用すれば、BIMの導入コストをかなり抑えることができるでしょう。BIMの導入は、長期的な視点に立てば、大きな経済効果を生み出すことが期待できます。国土交通省の建築BIM推進会議で実施されたモデル事業では、次のような試算が報告がされています。

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・BIMの導入により、設計・施工コストを最大20%削減できる可能性がある。

・BIMの導入により、設計作業時間を最大30%短縮できるという事例がある。

・BIMの導入により、建築物の構造計算ミスを最大50%削減できる事例がある。

・BIMの導入により、建築物のCO2排出量を最大20%削減できるという事例がある。

・BIMの導入により、不動産取引の件数を最大10%増加できるという事例がある。

これらの経済効果例は、あくまでもモデル事業における検討によるもので、BIMの導入によって必ずこうした数字が達成できるわけではありませんが、私たちがBIMの導入を検討する際の目標となり、ひいては日本の経済成長にもつながることが期待されます。それを期待して、国も「建築BIM加速化事業」のような支援策を実施しているのですから。

BIMの導入は、単に業務の効率化を求めるだけではなく、未来への投資であると考えるべきでしょう。国の補助金制度や、国土交通省や関連公益団体が公開する各種標準化ガイドライン、協栄産業も率先して取り組む人材育成プログラムなど、今年度始まった多くの施策をうまく活用することで、私たちもDXの推進を加速することができるのです。

さぁ、一緒に日本の未来を拓いていきましょう!

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