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コラム

第24回

「建築物エネ法が実現する
未来社会」

私たちの暮らしと建築業界の変革

前回のコラムでは、改正省エネ法について、皆様と一緒にその概要についてみてきました。

資源エネルギー庁(経済産業省の外局)は「2050年カーボンニュートラルを見据えた2030年に向けたエネルギー政策の在り方」という文書を公開しています。これは、日本のエネルギー政策の長期的な方向性を示す重要な文書で、この政策と改正省エネ法は、密接に連携しています。この二つの政策は、2050年のカーボンニュートラル実現という共通の目標に向かって、相乗効果を発揮することが期待されています。

改正省エネ法が十分に普及する(と政府が期待している)2030年頃には、私たちの生活は劇的な変化を遂げているかもしれません。省エネ基準の厳格化は、建築物の省エネ性能向上を促し、エネルギー消費の少ない快適な生活を実現するだけでなく、建築業界の構造そのものを変革する起爆剤となる可能性を秘めているのです。

建築物省エネ法の詳細については、
国土交通省のWebサイトをご覧ください。

建築物の快適性と省エネの両立

2030年頃の建築物は、省エネ法の基準を満たすだけでなく、それを超える高性能建築物が主流となるでしょう。高断熱・高気密に加え、太陽光発電や蓄電池、ヒートポンプなどの再生可能エネルギー設備が標準装備となり、エネルギーの地産地消が、今よりも格段に進むと考えられます。

経済産業省の「2050年カーボンニュートラルに伴う住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」の中間整理では、住宅などの建築物の一次エネルギー消費量を2013年度比で80%削減するという目標が掲げられています。2025年4月に全面施行される改正省エネ法はこの目標達成に向けた重要な一歩であり、2030年にはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)が、建物を建てる際の一般的な選択肢となっているでしょう。

さらに、AIやIoT技術を活用したスマートホームやスマートビルディングが普及すれば、照明や空調などを自動制御することでエネルギー消費を最適化し、快適な室内環境を維持することができるようになります。HEMS(Home Energy Management System)やBEMS(Building Energy Management System)によるエネルギー使用状況の可視化・分析も進み、省エネ意識の向上とさらなる省エネ行動を促す効果も期待できます。

建築業界はデジタル化と高付加価値化する

建築物省エネ法は、建築物の進化だけでなく、建築業界そのもののDX(Digital Transformation)も加速させます。

BIM(Building Information Modeling)がさらに普及し、設計・施工・維持管理の全工程で活用されるようになり、業務のデジタル化によって建築業界の効率化と品質向上がさらに進みます。国土交通省は2025年までにBIMの原則適用を目標としていますので、2030年に頃には、BIMが建築業界の標準的なツールとなっていることが予想されます。

また、BIMの普及と同時に、AIを活用した設計支援や積算ソフトの高度化によって、設計・積算業務の効率化とコスト削減も大きく進むことも予想されます。AIによる建築物の構造解析や各種シミュレーションは、2024年の現在も一部の設計事務所やゼネコンでの活用が始まっていますので、2030年頃にはより安全で高性能な建物の設計が、今よりもさらに進化したBIMによって可能になっていると考えられます。

省エネ基準の厳格化は、高性能な建材や設備の需要を高め、建築業界の高付加価値化を強力に促進しますので、先進的な建築物の設計・施工技術を持つ企業が次々と現れて市場をリードし、新たなビジネスモデルが生まれる可能性もあります。

脱炭素社会の実現と環境への貢献

建築物省エネ法は、住宅部門のCO2排出量削減に大きく貢献し、日本の脱炭素社会の実現に向けた重要な役割を果たすことが期待されています。ZEHやZEBの普及は、エネルギーの地産地消を促進し、再生可能エネルギーの導入拡大にもつながります。

また、省エネ性能の高い建物は、災害時のレジリエンス向上にも貢献します。停電時でも太陽光発電や蓄電池で電力を供給できるZEHは、避難所としての機能も期待できます。

しかし、今回の改正省エネ法の施行は、建築業界に新たな課題も突きつけました。建設業界は、深刻な人手不足に悩まされていますが、これに加えてBIMやAIなどのデジタル技術を使いこなせる人材が求められるようになり、高度なデジタルスキルを持つ建設技術者の育成が急務となっているのです。国土交通省はBIMの普及に向けた人材育成プログラムを推進していますが、今後はさらに環境シミュレーション技術などより高度なスキルを持つ人材が求められるようになるでしょう。

また、改正省エネ法に対応するための技術開発やイノベーションも重要です。高性能な断熱材や窓ガラス、省エネ設備の開発、AIを活用したエネルギー管理システムの開発など、新たな技術やサービスが次々と生まれることが期待されます。これによって、建設業界にはあらたなソリューションが生まれる可能性があります。

持続可能な社会への貢献

建築物省エネ法は、私たちの暮らしをより快適で持続可能なものに変えるだけでなく、建築業界の構造そのものを変革する可能性を秘めています。2030年頃には、現在の省エネ基準をはるかに超える高性能住宅が当たり前となり、BIMやAIを活用した効率的な建築プロセスが確立されていることでしょう。

この変化は、建築業界にとっての大きな挑戦であると同時に、新たなビジネスチャンスでもあります。私たちは、積極的に新しい技術を取り入れ、高付加価値なサービスを提供することで、持続可能な社会の実現に大きく貢献できるはずです。

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