

コラム
第33回
「建設DXに対する
学生さんのホンネ(前編)」
未来を担う彼らが
求める人材像とスキルとは?
前回コラムでは、建設業界におけるデジタルトランスフォーメーション(建設DX)の急速な進展と、それに対する教育現場の現状、そして産学連携による新たな教育の試みについてお伝えしました。特に、BIMの活用が原則化される未来を見据え、大学教育も変革が求められている点を指摘しました。

協栄産業では、こうした課題意識のもと、2024年12月に日本大学生産工学部建築工学科で「建設DX特別講義」を実施し、建築積算ソフト「FKS」や関連DXツールを提供するとともに、講師を派遣しました。
今回のコラムでは、その特別講義を受講した学生さんにご協力いただいたアンケート調査の結果をもとに、建設DX教育に対する学生さんのリアルな声、「ホンネ」に迫ります。まずは、彼らが建設業界の未来をどう見据え、どのような人材が必要だと考えているのかを見ていきましょう。
未来の担い手たちは
建設業界をどう見ているのか?
まず、学生さんに将来の進路について尋ねたところ、回答した学生さん(n=157)の多くが建設業界でのキャリアに関心を示していました。まぁ、建築工学科の学生さんですから、これは当然です。希望する職種としては、「設計系」が過半数(53.5%)を占め、最も多い結果となりました。次いで、「専門特化型(構造設計、設備設計など)」(15.9%)、「施工・現場系」(13.4%)と続きます。

建築工学科の学生が希望する進路
(資料提供:日本大学 森谷靖彦講師)
「設計系」を志望する理由としては、「建築デザインを通じて顧客の要望に応えたい」「BIMやDXなどの最新技術を活用した建設業界の革新に関心がある」といった声が聞かれました。創造的な仕事への意欲とともに、建築だけではなく、デジタル技術への関心の高さがうかがえます。
建設DX推進に必要な人材とは?
学生さんが描く未来像
次に、「建設業界の課題を解決し、DXを推進するために、今後どのような人材が必要か」という問いに対して、学生さんの考えを探りました。

学生が社会人に必要だと考えるスキル
(資料提供:日本大学 森谷靖彦講師)
最も多くの学生さんが挙げたのは、「専門スキル保有者」(37.2%)でした。BIM、CAD、AI、IoTといった特定のデジタル技術に関する深い知識や操作スキルを持つ人材が、DX推進には不可欠だと考えられていることが分かります。これは、DXの基盤となる技術力を重視する姿勢の表れと言えるでしょう。
そして注目すべきは、2番目に「ハイブリッド型人材」(32.6%)と「変化対応力保有者」(32.6%)が同率で挙げられた点です。「ハイブリッド型人材」とは、建設業界の実務知識とデジタルスキルの両方を兼ね備え、現場の課題をデジタル技術で解決できる人材を指します。また、「変化対応力保有者」は、新しい技術や環境の変化に柔軟に対応し、従来の方法にとらわれず革新的な解決策を模索できる人材です。
激甚災害が増え、予測不能な状況が多発する近年、学生さんは、単一の専門性だけでなく、分野横断的な知見や、時代の変化に対応する柔軟性の重要性を認識していることがわかります。これは、大人としては大変頼もしい結果と言えます。
さらに、「データ活用人材」(23.3%)や「基礎的デジタルスキル保有者」(20.9%)も必要だと考えられており、データの収集・分析能力や基本的なITリテラシーも、これからの建設業界で活躍するためには欠かせないスキルだと捉えられているようです。
求められるスキルセット:
デジタルとリアルの融合
では、これらの「求められる人材」になるためには、具体的にどのようなスキルや知識が必要だと学生さんは考えているのでしょうか。
アンケート結果を見ると、「デジタル技術スキル」が最も重要視されており、特にBIM/CADといった建築専用ソフトウェアの実践的な操作スキルが筆頭に挙げられました。プログラミングやAI、データ分析に関する知識も求められています。
しかし、それだけではありません。「建築・建設の専門知識」(建築基準法、設計・施工プロセス、材料、構造、設備など)の重要性も強く認識されています。デジタルスキルと建築の専門知識、この両輪があってこそ、真に価値のあるDXが実現できると考えているのでしょう。
加えて、「マネジメントスキル」(プロジェクト管理、リーダーシップ、論理的思考力)、「コミュニケーション能力」(関係者との連携、チームワーク、説明・教育能力)、そして「学習姿勢・対応力」(継続的な学習意欲、挑戦する姿勢、変化への適応力)なども、必要なスキルとして挙げられています。さらに、建設とITの双方を理解する「融合的な視点」の重要性も指摘されました。
今どきの学生さんは…
このように、今どきの学生さんは、建設DXに必要なスキルセットを多角的に捉えていることがわかりました。彼らは単にデジタルツールを使いこなすだけでなく、建築の専門知識と融合させ、変化に対応しながらプロジェクトを推進していく能力の重要性を理解しています。この結果を見る限り、建設業界の未来は、とても明るいようです!
次回(後編) は、彼らが授業や将来のキャリアに対して抱く、さらに具体的な『ホンネ』、特にリアルな現場への渇望や、教育に対する期待について掘り下げていきます。お楽しみに!