コラム コラム
ホームコラム KYOEI Lab. > 第32回「建設DXと教育現場」

コラム

第32回

「建設DXと教育現場」

宇宙人に頼れない時代

前回までのコラムでは、文明アドバイザーを名乗る宇宙人が地球の危機について奔走してくれましたが、彼がM88星雲に帰ってしまった今、私たちは自分たちのチカラでこの地球環境を保全していかなければなりません。なにせ、次にあの宇宙人が地球に来てくれるのは、数万年先のことなのですから。

地球の未来を拓く建設DX教育

近年の建設業界は、デジタル技術の波に乗り、大きな変革期を迎えています。中でもBIM(Building Information Modeling)は、その中心的な役割を担い、設計、施工、維持管理といった建築物のライフサイクル全体を効率化する切り札として、その存在感を増しています。

国土交通省もこの動きを加速させるため、「建築BIM推進会議」を設置し、BIMの活用を強力に後押ししています。この会議では、BIM標準ガイドラインの整備やBIMライブラリの構築など、BIM普及のための環境整備が急ピッチで進められています。

特に、2025年度末からのBIM図面審査の開始、2028年度以降のBIMデータ審査開始という具体的なロードマップは、建設業界に大きなインパクトを与えています。

しかし、ここで一つの疑問が浮かび上がります。それは「教育現場は、この社会のスピードに対応できているのだろうか?」ということです。

日本の大学におけるBIM教育

国土交通省の調査によれば、建設業全体でのBIM導入率は48%を超え、大手設計事務所やゼネコンでは80%を超える一方で、日本建築学会の調査によると、大学などでのDX教育は、CADの基本操作程度にとどまるケースが少なくありません。

そして、この社会ニーズと教育現場とのギャップは、学生が実際に現場で働き始めた時に初めて露呈するのです。せっかく新社会人として胸を躍らせているのに、現場で先輩たちから「最近の若者は使えねーな」などと言われてしまっては、新社会人が可哀そうです。むろん、これは学生に非があるのではなく、教育機関側に問題があると考えるべきです。昨今の建築教育に求められているのは、単なるBIMの操作スキル習得に留まらない、例えば次のような学習内容です。

・BIMを利用した協働設計の考え方

・BIMと周辺ソフトとのデータ連携の知識

・BIMを活用した各種シミュレーション能力(例えば改正省エネ法へ対応するための環境シミュレーションなど)

もちろん、社会で即戦力として活躍できるスキルはこれだけではありませんが、BIMを使ってより実践的な能力を育成することが、いまの建築教育には必要なのです。

大学における建設DX教育

こうした問題意識から、近年、一部の大学ではBIMを活用した新たな教育プログラムの開発が進んでいます。例えば、東京工芸大学で2023年から行われている「シン・建築教育」はその代表例と言えるでしょう。協栄産業は、この授業に毎年教材(FKSKYOEI COMPASS)を提供し、講師も派遣するなど、産学連携の取り組みに積極的に関わっています。

東京工芸大学での「BIMを利用した建築積算の授業」

さらに、協栄産業は2024年12月に日本大学生産工学部で行われた「建設DX特別授業」でも、教材(FKSKYOEI COMPASSの提供と講師の派遣を行いました。この授業は建設DX時代の新しい取り組みとして、新聞各紙に取り上げられました。

2024年12月25日 建設通信新聞 掲載記事

学生のホンネ

協栄産業は、日本大学の「建設DX特別授業」の実施後、オンラインアンケート形式の「学生ニーズ調査」を実施しました。この調査では、学生の約60%が「シミュレーション活用」や「データ連携・活用」など、より発展的・実践的な内容を求めていることが明らかとなりました(調査の詳細は次回のコラムで紹介します)。

この結果は、学生自身も大学教育と実務のギャップを認識し、より実践的な学びを求めていることの証左と言えるでしょう。大学などの高等教育機関は、こうした学生の声に耳を傾け、急速に進む社会のDX化に合わせたカリキュラムを準備する必要がありそうです。しかし、DX教育の充実は大学だけの課題ではありません。

建設業の産業構造

中小設計事務所や工務店では、大企業に比べてBIM導入が遅れているのが実情です。日本の建設関連の業者(建設業許可業者数)は、全国に約48万社(国土交通省調べ)あり、その多くが中小零細企業と言われています。中小設計事務所や工務店で建設DXが進まない理由は、BIMなどの導入や運用コストの高さ、そして操作習得の時間的負担などが挙げられます。高齢化が進む労働環境も、その要因の一つでしょう。

しかも、そうした状況に追い打ちをかけるように、2025年4月からは改正省エネ法が全面施行され、中小工務店にも省エネ基準への適合が義務付けられるなど、この業界には対応すべき課題が山積しています。

だからこそ産学連携で教育改革を!

DX化は待ったなしだけど、BIMを導入する余裕はないし、導入したところでBIMを使えるデジタルに強い社員はいないし…

そんな閉塞感がただよう建設業界ですが、大学や専門学校でBIMなどの建設DXスキルを身に着けた実践的な人材が、世の中に多く輩出されたらどうでしょう?

そう、このDXを取り入れた教育改革こそが、日本の閉塞感を打開する決定打となり得るのです。例えば、日本大学で行われた「建設DX特別授業」では、協栄産業の建築積算ソフト「FKS」や、協栄産業のパートナーであるNexceed社の設備施工管理ソフト「BIMXD」や、FMシステム社の「FM-Integration」など、実際に業務の最前線で利用されている”本物の”ツールを学生が実践的に体験することによって、学生は、BIMの更なる可能性を体感し、建設DXへの理解を深めることができました。

こうした事例は、大学と企業双方の現場が連携することで、DX教育の成果を社会実装に繋げられることを示しているのです。

大学などの高等教育機関は、実務で求められるスキルを教育プログラムに反映させ、より実践的な教育を次世代を担う子供たちに提供する必要があります。そして、その教育成果を広く社会に還元することで、建設業界全体のデジタル化を推進していくことが、これからの教育に求められる役割と言えるでしょう。

協栄産業は、今後も産学連携への積極的な取り組みを通して、よりよい社会の構築に貢献してまいります。

コラム一覧へ